太陽電池(PV)モジュールの高出力化が加速している。10年前のPVモジュールの出力は200W前後が一般的だったが、今では400Wが必須条件となっており、最近では中国の大手PVメーカーが相次ぎ500Wオーバーの高出力モジュールを発表している。
PVモジュールの高出力化を支える技術は単結晶シリコン(Si)、PERC(Passivated Emitter Rear Cell)、ハーフカット、MBB(Multi-busbar)、高密度実装技術などだが、とりわけ、各社が注力しているのがウエハー&セルの大型化である。
現在、最も大きな単結晶Siセルのサイズは210mm角(M12サイズ)である。対角線の長さは296mmで、これは12インチ(300mm)のSiウエハーから取れる最大サイズに相当する。
半導体産業では21世紀初頭から300mmウエハーの普及が始まっているが、PV産業もついに300mm時代を迎えようとしている。
高出力化でコストを低減
PVモジュールの出力は直近の1~2年で急速に向上している。10~11年当時の量産モジュールの出力は200W+αが一般的だった。モジュール変換効率は15%前後で、バスバーの本数は2~3本が主流だった。
一方で、フルスクエアの単結晶Siセルや4本バスバー、ハーフカットの提案が増えてきたのもこの頃である。
10年代後半に入ると、PERC技術の登場で結晶Siモジュールの高出力化と低コスト化がさらに進んだ。出力は300Wを超え、さらに、ハーフカット、MBBを組み合わせたモジュールの出力は400Wに達した。
そして、20年には出力がついに500Wを超えた。
当たり前だが、PVモジュールの出力は高い方が良い。出力が高ければ、システム全体の発電量が増え、最終的にはLCOE(均等化発電原価)が低減するからだ。
LCOEはモジュールコストを含むトータルコストをトータル発電量で割った数式で算出される。モジュールコストの低減は必須だが、発電量の増加もLCOEの低減には有効である。
ちなみに、この10年間でLCOEは大きく下がった。Trina Solarの分析によると、10年に0.37ドル/kWhだったPV発電所のLCOE(世界平均)は、18年には0.085ドル/kWhまで下がった。8年間で約8割低下したことになる。
すでに、PVのLCOEは化石資源と同水準に達しているが、30年には化石資源よりも安価になるとTrina Solarは予測している。そして、LCOEの低下を後押しするのがPVモジュールの高出力化である。
Siの価格下落が引き金
現在のPVモジュールは、単結晶Si、PERC、ハーフカット、MBB、Bifacial(両面発電)、高密度実装などの技術を組み合わせることで高出力化を実現しているが、近年、脚光を浴びているのがSiウエハー&セルの大型化である。
PV用単結晶Siウエハーのサイズは、90年代から00年代初頭にかけては100~125mm角と小さかった。原料のポリSiが高価で、コスト的にもSiウエハーの大型化は難しかったようだ。
その後、ポリSiの生産量が増えたことで価格が下落し、それに伴い、単結晶Siウエハーのサイズも大型化が進んだ。
ちなみに、ポリSiの価格は08年ごろがピークで、kgあたりのスポット価格が500ドルまで高騰した。ところが、09年には100ドルを下回る水準まで下がり、以後、下落基調が続く。
11年までは70ドル前後で推移していたが、12年に20ドル、13年には16ドルまで下がった。その後、価格は上下を繰り返すが、現在は9Nの高純度PV用ポリシリコンが6ドルまで下落している。
コンソーシアムが182mmを提案
従来の単結晶Siウエハーは156mm角(M2サイズ)が主流だったが、現在は158mm角(G1サイズ)や166mm角(M6サイズ)へのシフトが進んでいる。
実はウエハーのサイズはこれ以外にも、161mm角、163mm角、182mm角(M10サイズ)、210mm角などが提案されており、まさに百花繚乱といった有り様だ。
次世代の高出力モジュールに最適なセルサイズについては、業界内でも議論が進んでいるが、今のところ、182mm角と210mm角に大別される。
182mm角はJinko Solar、JA Solar、LONGi、Canadian Solarなど主要PVメーカー7社が参画するコンソーシアムが提案している。
一方の210mm角はRisen Energy、Trina Solar、GCLなどのグループが支持しているが、いずれも500Wオーバーの高出力モジュールを開発しており、20年から本格的な量産が始まる予定だ。
「Tiger Pro」オンライン発表会の様子
(Jinko Solar)
Jinko Solarは19年に163.75mm角の単結晶PERCセルを用いた「Tiger(出力470W)」を発表したが、20年には182mm角の大型セルを用いた「Tiger Pro」を開発した。
セルを大型化したことで出力が100W以上増え、156セル(ハーフカット)モジュールの出力は580Wに達する。20年第3四半期(7~9月)から量産を開始する予定で、21年末までに年間生産能力10GWを計画している。
JA Solar、LONGiも182mm角セルを用いた高出力モジュールを開発した。JA SolarはGa添加のSiウエハー、PERCIUM(PERC技術)、MBB、ハーフカット技術、両面受光などに着目しており、156セル(ハーフカット)でモジュール出力445Wを実現している。
そして、20年に182mm角セルを用いた新型モジュール(最高出力525W)を開発し、20年下期から市場投入を開始する。
LONGiは19年5月に166mm角ウエハー(M6)を採用した「Hi-MO4」を発表したが、その直後から、次世代の高出力モジュールの開発を開始し、20年6月に182mm角セルを採用した「Hi-MO5」を発表した。
「Hi-MO4」の出力は144セル(ハーフカット)で450Wだが、「Hi-MO5」は同じ144セルで530Wを実現した。20年8月までに本格的な量産体制を構築するという。
「Hiku6」は最高出力590W
(Canadian Solar)
Canadian Solarも「Hiku5」と「Hiku6」の2つの新型モジュールを発表した。「Hiku6」は182mm角のハーフカットセルを採用し、156セルで最高出力は590Wに達する。21年第1四半期(1~3月)の出荷を予定している。
Risenが火蓋を切った
Risen Energyはオーバー500Wモジュールの先駆けで、19年12月に210mm角の大型セルを用いた高出力モジュールを発表した。50セルで500W超の出力を実現しており、20年の量産開始を予定している。
Trina Solarも210mm角セルを用いた新型モジュール「Vertex」を開発した。「Vertex」は業界で広く普及しているハーフカットではなく、3分の1カットを採用したのが大きな特徴だ。
3分の1カットはプロセスリスクを抑えつつ、電流と電圧のバランスが維持できると同社は説明している。また、独自に開発した低温レーザー切断技術により、3分の1カットでもフルセルと同等の荷重性能を実現している。
「Vertex」は1/3カットの大型セルを採用
(Trina Solar)
「Vertex」は150セル(3分の1カット)で485~505Wの出力を実現している。20年度第3四半期(7~9月)から量産を開始し、20年末までに年産5GW以上の生産能力を構築する。
最適なセルサイズはどれか
大型セルの採用でモジュール出力が向上することは実証済みだが、果たして、最適なセルサイズはあるだろうか。高出力化のためにセルを大型化すると、必然的にモジュールも大きくなるが、モジュールが大きくなれば、梱包や輸送の問題が無視できなくなる。
こうした理由から、Jinko SolarやLONGiは、「現状では、高出力とハンドリングを両立するには182mmが最適」と説明している。
210mmは究極のセルサイズになるか
では、210mmはどうか。210mm角セルは従来の156.75mm角セルと比較すると面積が8割も大きい。210mm角セルを用いたモジュールは、50セルで出力が500Wを超えるが、60セルでは600W超が狙える。
先行する半導体産業では、すでに次世代ウエハーとして450mmが提案されているが、当面は300mmの時代が続くと思われる。そのため、300mmウエハーから取れる210mm角セルは「今後5~10年間はPV用として究極のサイズになる」とTrina Solarは主張している。
ただし、210mm角のセルを用いたモジュールは、50セルの場合でも縦の長さが2.1~2.2mに達する。これは156.75mm角セルを用いた72セルのモジュールよりも大きい。
182mm角セルを用いたモジュールも同様で、Jinko Solarの「Tiger Pro」は78セル(ハーフカット156セル)で長さが2.3m以上になるが、Canadian Solarの「Hiku6」はハーフカット156セルで2.4mを超える。
次のターゲットはヘテロ接合
いずれにしても、セルを大型化してモジュールの出力アップを狙うというアプローチには限界がありそうだ。従って、さらなる高出力化には、セル構造そのものを工夫する必要がある。
現状のセル&モジュールサイズで高出力化を図る技術として、ヘテロ接合が注目されている。Jinko SolarやRisen Energyもヘテロ接合の開発を進めている。
今後は、ヘテロ接合型の大型セルにハーフカット(もしくは3分の1カット)、両面発電、MBB、高密度実装(Shingling含む)などの技術を組み合わせることで、600W超の出力を狙う動きが活発化しそうだ。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾