電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第409回

太陽誘電(株) 代表取締役社長 登坂正一氏


ハイスペック注力が奏功
MLCC能力を相次ぎ増強
新たな「コト」にも挑戦

2021/1/22

太陽誘電(株) 代表取締役社長 登坂正一氏
 創立70周年を迎えた太陽誘電(株)(東京都中央区京橋2-7-19、Tel.03-6757-8310)はコンデンサー、インダクターを主力に快走を続け、全社売上高3000億円の大台が射程に入ってきた。また、高収益体質に向けたビジネスモデルの変革を目指し、既存の電子部品事業における「コア技術の強化」に加えて、新たな「新事業創出」をスマイルカーブの両端に置き、「コトづくり」にも力を入れている。コロナ禍で世界が翻弄された2020年を経て、同社はどう進化し、21年以降の展望をどう描くのか。代表取締役社長の登坂正一氏に話を聞いた。

―― コロナ禍の影響は。
 登坂 20年3~5月にマレーシアとフィリピンの工場稼働が制限されるなど影響を受けた。その一方で国内では、ワークスタイルの変化に対しては、Web会議システムなどを拡充して混乱なく対応でき、時間的効率化も図れるなど利点もあった。オリンピック対策を想定し、事前に在宅ワーク環境整備を進めていたことが奏功した。

―― 20年の総括を。
 登坂 4~6月期は前述のように海外工場で稼働が制限されるなど影響を受けた。そして7月以降はスマートフォン(スマホ)が立ち上がり、自動車関連も思ったより早く回復し、10~12月期も旺盛な需要が続いている。米中貿易摩擦の影響を危惧する声があるが、スマホ市場全体としての需要はむしろ旺盛であり、需給の逼迫感が強い。ただ、発注がやや過熱気味ではないかという懸念もあり、1~3月期以降に反動が来ることも注視する必要がある。基本的に需要は強含みが続くと見ている。

―― 貴社の強さの秘訣は。
 登坂 まずハイスペック領域に注力してきた戦略が奏功し、5G関連などで小型需要に迅速に対応できたことが挙げられる。そして、ADASを中心に自動車関連の受注獲得が増えたこと、さらに基地局など情報インフラ向けに取り組んできた戦略が需要期にマッチした。また、海外工場を積極的に活用する拠点展開も活きた。当社は海外各拠点でも車載向け部品の生産認定を取得しているため、安定供給が可能な生産体制を構築している点も強みとなっている。

―― 一方で、想定外だったことは。
 登坂 サプライチェーンの混乱が生じた4~6月期から物流費が上昇した。当社の部品は航空便で運んでいるが、条件によっては船便で運ぶなど、時間とコストの両面を含めた総合的視点で物流対策を講じておく必要性を痛感した。

―― 21年は5Gスマホの需要が倍増するとの見方があります。
 登坂 5G対応スマホになると、当社主力のコンデンサー、インダクターの部品点数が30%増になった機種もある。インダクターは小型品をより半導体の近くに配置し、高速化・高効率化しようという流れにある。当社はメタル系パワーインダクター「MCOIL」において、小型化に優位な積層タイプを商品化しており、5G向けに受注が旺盛だ。スマホを中心にIoT関係で当社メタル積層タイプの技術が活かせている。

―― 自動車も電動化へ需要が旺盛な印象です。
 登坂 車のパネル周りの旺盛な需要に加え、テレマティクス、ライト周り、ADAS関連のMLCC、インダクターの員数増など需要は強い。テレマティクスでは堅牢性の高いパッケージが評価され、当社フィルターのシェアが高い。一方、車の電装化に伴い、求められる特性にマッチした新たなメタル系インダクターの上市を急ぐ必要がある。既存のフェライト系とメタル系の製品ポートフォリオをうまく調整しながら、提案活動を加速していく。

―― 生産もフル稼働ですね。
 登坂 MLCCを生産する新潟太陽誘電で3号棟、4号棟と立て続けに新工場の増強を行った。ただし、生産拡大にあたり、生産効率も同時に上げる必要があり、ロスを削減しつつ生産量を増やす生産性改善活動「smart.E」プロジェクトを本格的に活かしていくことが前提になる。

―― 全固体リチウムイオン2次電池開発の進捗を。
 登坂 21年度内の量産化を目指している。お客様とスペックのすり合わせを行う中で、材料を少し変えたりしながら最終調整が進行している。

―― フィルター事業は。
 登坂 FBAR/SAWフィルター、セラミックフィルターともに技術改善を進め、引き合いも引き続き好調だ。また、5GやWi-Fi6向けにセラミックフィルターを展開中だ。高周波向けのセラミックフィルターはセラミックの積層構造であり、配線のファインパターン化など高度な製造技術を要する。さらなる改善を進めていく。

―― M&Aによる事業強化などのお考えは。
 登坂 M&Aも選択肢として常々考えている。M&Aにより新たな技術を得られるか、販売ルートも含めて利点があるか。この辺りを全社ビジネス視点から総合的に見極め、判断する必要がある。直近の事例としては、車載向け強化に向けて19年にエルナーを完全子会社化した経緯がある。

―― 新たな「コト」に挑戦中ですね。
 登坂 お客様の困りごと解決という従来にない新領域で「コトづくり」に取り組んでいる。具体的に事業化したものとしては、自転車の電動アシストに取り組んでいる。当社製コントローラーを組み込んだ高効率のモーター回生システムを自転車メーカーに提供しており、すでに数十億円規模のビジネスになってきた。今後、1回の充電で1000km走行できるシステムの実現を目指している。回生により充電回数を極端に減らせる電動アシスト自転車を可能にしたい。省エネ化で社会貢献にもつながる。

―― フィルター応用のセンサーも開発中とか。
 登坂 当社のフィルター技術を応用した匂いセンサーを開発中であり、現状、人の鼻レベルの感度までこぎ着けた。次は犬の鼻レベルを目指し、危険物検知などへの応用を見据えていく。その先に、線虫レベルが実現できれば、例えばがん検知なども可能になるのでは、と考えている。

―― 開発中のセンサーの事業化イメージは。
 登坂 AIを加えてシステム化するなど「コト」につなげなければ意味がない。そこで、新川崎センター「SOLairoLab(そらいろラボ)」を開設し、スタートアップ企業や大学など外部とのオープンイノベーションを推進し、10年先を見据えた新規ビジネス開拓にも着手したところだ。また、別件では群馬県、広島県などの自治体と協業で水位センサーを活かした河川監視システムの実証実験も進めている。

―― 21年のテーマを。
 登坂 今後も継続的に需要成長が見込まれる電子部品事業の能力増強を着実に進め、お客様からの要求に応えられる体制づくりが必要だ。社内体制面ではsmart.Eの一環として、営業の見える化にも取り組み、お客様の声に全社一丸で迅速に対応できる体制を構築していく。


(聞き手・編集長 津村明宏/高澤里美記者)
(本紙2021年1月21日号1面 掲載)

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