商業施設新聞
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第286回

(株)トリニティーズ 代表取締役社長 中山亮氏


リーシングは熱意+根拠が必須
“営業時間内のみ営業”は終焉

2021/6/29

(株)トリニティーズ 代表取締役社長 中山亮氏
 全国に約3209カ所、2019年時点で32兆円の市場規模を持つショッピングセンター(SC)は、競争が激化して空き区画が埋まらない事例が増えている。ファッション業界の不振、少子高齢化やECの隆盛、飽和感などに加え、コロナ禍の影響がこれに拍車をかけ、SCは新設よりも閉店が増えるなど逆風下にある。SCの運営に必要なのは何か。今、SCのサポートで多くの実績を積み脚光を浴びているのが、商業コンサルなどを手がける(株)トリニティーズだ。代表取締役社長の中山亮氏に聞いた。

―― 商業コンサルは数多くあります。他社との違いは。
 中山 コンサルティングとは本来解決方法を示すもの。それができているので選ばれていると自負しており、創業から累計100以上のSCと業務を実施してきた。当社は開発と運営サポート、リーシング、リモデルを手がけている。顧客に対して“なんとなく”ヒアリングするのではなく、分析した数値を基に、実態や課題を抽出する。その中で、今あるハードやテナントのポテンシャルを最大限に引き出すことに心を砕く。

―― どうしても館は集客にこだわりがちです。
 中山 “売上高=集客力”重視は前時代的考え方。リーシングも今日では利益、そしてどれだけ自由に使えるキャッシュを生み出せるかがカギになる。館が黒字を確保できるラインはどこなのか、施設予算の中でテナントに『床をいくらで借りてください』ではなく、『この範囲(区画・面積)の中であなた方はこのくらいの売り上げを出せるか』『長く利益を当館で出し続けられるか』という考えが必要で、理想論ばかりの情熱だけでリーシングできる時代は終わった。熱意にプラス根拠が必要。根拠の部分をコンサルティングがフォローする。その相乗効果は強みだ。

―― リーシングで何かユニークな取り組みは。
 中山 誘致実務だけでなく、リーシングツール制作を専門のデザイナーと協業している。リーシング用動画も作る。
 例えば、オープンモールで芝生の広場と開放感が特徴の施設では、それをきちんと見せるために上から撮ってイメージを伝えることが大切。ドローンを飛ばして空撮動画をデベロッパーと作った。併せて地上の開発目線で歩いているような映像も用意。テナントの開発担当が現地確認のために1日かけて行く。場所によっては現地を確認するのに2日がかりになることもある。その“一番最初の段階”が動画では一瞬で済む。先進的な取り組みだが、評価をいただいており、少なくともリーシング会議で動画を見てもらうことができる。時代に合う武器をどれだけ揃えられるかだ。

―― 空床が埋まらない状況をどう見ますか。
 中山 デベロッパーが感じている以上にアンバランスになっている。5年前と比較しても完全に立場が逆転している。テナントは選べる、デベロッパーはテナントの取り合いで、今伸びているテナントは引っ張りだこ。一方で、チャンスだから出たいというテナントも少なくない。ファションよりもサービスや飲食。今まで脚光を浴びなかった業種が商業施設で輝けるようになってきており、賃料も払える水準になってきた。

―― デジタル活用に対しては。
 中山 販促ツールのデジタル化(SCアプリ)や、ECまで設計可能なWEBサイトを提案している。今、デジタルの要素が2~3割必ず入っていないと、顧客に情報が届きにくい。“営業時間内にしか営業しない”SCの時代は終わったと思う。消費スタイルが大きく変わる中、消費者が買いたいと思った時に、来なければ買えないというのは、集客ありきの旧モデルではないか。施設のブランド力を使ってどこまで売り上げを高められるか。例えば館のECサイトなど新たな場の開発も必要な選択肢だ。

―― いかに消費者にミートするかが大事ということですね。
 中山 そのとおりで、お客様が求めるものをどれだけ形にできるか。1つはオリジナリティ。人と違うことをするのがオリジナリティではなく、「あなたのマーケットのあなたのお客様にきちんと沿ったことをやる」のがオリジナリティ。どういう人が住み、どういう買い物をして、どんな時間の過ごし方をしているか、どんなSCが最も必要かを見直す機会だ。その中で、アタッチメントポイントとして、顧客の1週間の中で、何回触れられるか。過去に『ツイッターやってます』という施設を見たら100人しかフォロワーがいなかったことがある。魚のいないポイントで釣りをやっているようなもので、発信さえすれば届くと思っている人がまだ多い。「自分たちが発信する情報がマーケットのお客様に価値を提供しているか?」をきちんと把握する必要があり、顧客のスマホの中にどれだけ入り続けるかが重要。その結果として、来館・購買・共感・ファン化まで、改めて顧客動線を引くことが肝要だ。

―― 館がイメージする顧客と実際の顧客層が乖離していることは。
 中山 往々にしてある。お客様はどんな方と聞くと、中心世代は30代というが、フードコートはお年寄りばかり。シニアを相手にするのを何故か嫌がるデベロッパーがいるが、それもリアル。客層として据えつつ、どうしたらターゲットにしたい層にも自分たちの商業施設を使ってもらえるのかを加算して考えるべきだ。


(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
※商業施設新聞2396号(2021年5月25日)(1面)

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