電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第421回

車載ディスプレーが大型化、多機能化


JDIは液晶で勝負、シャープは3つのバックプレーンに強み

2021/10/1

車載向けは回復傾向も下期注意か

 調査会社のOMDIAによれば、2021年1~9月の車載向けディスプレーの出荷台数は1億3498万台になる見通しだ。21年の車載ディスプレーを取り巻く環境は、20年の落ち込みを挽回する勢いもあり、強い見通しが示されている。四半期別には、21年1~3月期は前年同期比26%増、4~6月期は同59%増、7~9月は同29%増の見通しだ。世界的な半導体不足については、半導体の供給不足を見込んだ中間業者が、ディスプレーの過剰発注を載せている可能性もあることから、21年下期の動向には注意が必要との見解だ。

ディスプレーの進化はEVとともに

 近未来の自動車は、自動運転の進化により、より安全・快適な移動の提供が可能となるとされている。車内デザインも変化し、車内の居住空間も大きく広がっていくことから、クルマに搭載されるディスプレーはより大型化していくと見られている。大型化することで表示する情報量が増えるため、これまで以上の低消費電力化も不可欠の要素とされている。また、異形やナローベゼル(狭額縁)、曲面ディスプレー、さらなる高解像度化や視認性の向上など、性能やデザイン性に対するニーズは多様化・高度化していく方向にある。

 近年では、電気自動車(EV)があらゆるトリガーとなりそうだ。EVを中心に製品ラインアップが急速に変化していくなかで、新しいディスプレーの採用と大型化も進展していく流れにある。さらに、EVでは新しいデバイスが採用される傾向が強いというだけでなく、そのサプライチェーンの変化にも関心が高まっている。EVでは、従来のカーメーカー→ティア1→ティア2→ティア3→・・・といった生産関係が無くなることも大いに考えられるからだ。

 例えば、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などの新しい巨人たちが自動車のソフトウエアを握ることで、直接ティア2ティア3といったハードメーカーとやり取りすることも考えられ、自動車サプライチェーンのパラダイムシフトが起こるかもしれないと期待されている。今後のEVにおいては、新しいカーメーカーの誕生とともに、産業構造が一変する可能性も高く、その動向に注目が集まっている。

JDIは技術優位性を持つ液晶で勝負

 車載ディスプレー市場では、(株)ジャパンディスプレイ(JDI)が20%程度のシェアを持ち、トップを堅持していたが、19年にLGディスプレーが20%に達し、JDIは2位に転じたようだ。その後は、虎視眈々とJDIの市場を狙い数年前から価格攻勢をかけてきた中国・天馬グループがトップになり、数量ベースでのシェアを伸ばしている。

 以下では、国内で車載ディスプレーの製造を手がける、JDIとシャープディスプレイテクノロジー(株)(SDTC)の取り組みについて紹介する。

 JDIでは、LTPS(低温ポリシリコン)のバックプレーン技術も含めた、液晶ディスプレー製品で他社を圧倒していきたい考えだ。21年度通期の車載事業は売上高1060億円を計画しており、スマートフォン向けを主としたモバイル事業に重きを置いた売り上げ形態から脱却すべく、車載やノンモバイル事業の伸長を目指している。

 近年では、新エネルギー車において、既存のOEMとは全く異なる考え方を持つユーザーが出てきていることから、これら新規メーカーと既存にはない新しいビジネスモデルを構築すべく、営業戦略を進めている。

 製品ラインアップは、(1)メーター/クラスター向け、(2)ナビ/CID向け、(3)助手席向け、(4)HUD向け、(5)ミラー向けの5つのカテゴリーに分けられる。車載ディスプレーは確実に大型化していることから、クラスター向けでは、メーターの中央の表示スペースで使用される3.5型や4.2型なども残っているものの、12.3型のフルクラスター向けを主流に、10.2や10.3型、特殊なデザインで15、17型も出始めている。助手席(ダッシュボード)向けでは11型が、HUD(Head-Up Display)は1.2、1.8型が主流となり、大型化した3.1型も出始めているという。

大型化するHUDを注力製品に

 クラスターやCID、助手席向けをメーンに展開するが、同分野は多くの競合メーカーが価格攻勢を進め、有機ELも参入してきている。同社では、これらディスプレーの一つひとつの市場を数量で追いかけず、3つのディスプレーをシームレスにつなぎ、1枚のカバーガラスでラミネートした3in1パネル製品のような、総合コックピット戦略を推進していく方針だ。

 また、大型化が進展するHUDについては、従来よりも多くの情報を扱うようになることから、特に注力する製品分野に据えている。このほか、コントラストが高く、漆黒の美しい有機ELを凌駕する画面を、直下型バックライト+ローカルディミング技術で表現していく。

 一方で、有機ELディスプレーの車載向け展開については、市場的には本格的に着手する段階ではないと見定め、当面、事業の軸足は液晶ディスプレーに置く方針だ。

 車載用ディスプレーの生産体制は現在、鳥取工場をメーンに、石川工場、茂原工場(千葉県)でも手がけている。昨今は半導体不足のあおりを受けて、10%ほど下がる時期もあるものの、21年度はフル稼働状態にあるという。

SDTCもHUDを注力製品分野に

 20年10月、シャープのディスプレイデバイス事業を分社化して設立されたSDTCは、小型~大型まで様々な用途のディスプレーの生産を手がけている。シャープとしては、05年に車載ディスプレー市場に参入した。事業全体における製品カテゴリーは、中小型では車載、ノートPC、モニター、タブレット、スマホ、HMD、産業機器向けなどを手がけ、大型ではTVやサイネージまでを手がけている。

 車載ディスプレー事業においては、メーン拠点である三重(多気)工場に加え、亀山工場での生産を強化することで、ディスプレー事業全体に占める売上比率を拡大させる計画だ。売上高規模としては、最低限でも業界の伸び以上の成長を達成することを目標としている。ポートフォリオの分散を重視し、従来は北米向けが多かったものを、18~20年の3年間で国内、欧州のユーザーを増やすことに成功した。各々が3分の1程度の割合を占めるような、バランスを持った分散化が進められているという。

 車載ディスプレーのラインアップは、CID、クラスターをメーンに、4.2型~14型を手がけている。まだ少量ながら、ミラー、HUD向けも手がけている。車載ディスプレーは大型化が進んでおり、新規開発案件は10型以上をメーンに、17、18型なども増えてきている。

 現状はCID、クラスター向けが9割を占めるが、HUDやミラーディスプレーの拡大にも取り組んでおり、HUDではすでにフルカラー製品を展開している。今後は、HUDを中心にこれらディスプレーの比率を高めていく。

シャープディスプレイテクノロジーが提案するS字型パネル
シャープディスプレイテクノロジーが提案する
S字型パネル
 HUDは純正品対応が増えているうえに、従来の3~4型から7~8型へと大型化し、フロントガラスに様々な表示をさせるために高機能化も進展していることから、JDI同様に、SDTCもHUDに注力していくとしている。また、有機ELも車載ラインアップの1つとして、サンプル提供を開始している。

SDTCは量産体制とバックプレーンに強み

 車載ディスプレーの生産体制は、三重事業所(三重県多気郡)と亀山事業所(三重県亀山市)にある計4工場で量産している。a-Si、LTPS、IGZOの3つのバックプレーンを使い分け、4G(680×880mm)、4.5G(730×920mm)、6G(1500×1800mm)、8G(2160×2460mm)の4つの基板サイズで製造が可能だ。亀山第2工場においては、1.5mのスーパーロングサイズディスプレーの生産が可能で、18年から車載向けにラインを一部活用している。実装工程は中国・無錫工場をメーンに、亀山工場でも推進している。ベトナムの新工場でもラインを整備中で、22年度の第1四半期中に立ち上げる計画だ。

 近年は、車載でもLTPS製品が増えてきつつあり、新機種ではLTPSやIGZOをメーンに展開している。a-Siは生産性が高く、LTPSは高精細化や異形に向いており、IGZOは大型化+高精細化・異形にも最適なプロセスとして、それぞれに利点を使い分けていくとしている。大きな8Gライン工場で量産できること、3つのバックプレーンの生産プロセスを持つことで様々な形状のディスプレーに対応できることが、同社のアドバンテージになっている。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子

サイト内検索