電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第430回

電動化に舵を切る日系自動車部品メーカー


eAxleめぐる競争が本格化

2021/12/3

 「ポストコロナ」の世界的なテーマとして浮上してきたカーボンニュートラル。自動車業界ではその流れを反映し、電動化が一気に加速している。それを受けて、日系自動車部品メーカーにおいても電動化や自動運転化といったCASE対応を前面に打ち出す動きが増えてきた。特に2021年になって相次いで公表された各社の中長期的な事業計画では、その方向性が鮮明となっている。そこで本稿では代表的な日系自動車部品メーカーが発表した、電動化戦略を取り上げたい。

デンソーは電動化関連で売上高1兆円目標

 トヨタグループのデンソーは、グループの車載エレクトロニクスの中核に位置づけられることに加え、世界的にもトップクラスの自動車部品メーカーという顔も持つ。21年5月に発表した事業戦略では、電動化関連製品の売り上げを25年度に20年度比1.8倍の1兆円に引き上げるという目標を示し、電動化への取り組みを加速する姿勢を明確にした。

 デンソーはパワートレインを構成する駆動系や電源系製品を多く手がける。駆動系の主力であるインバーターは、小型化や高出力化を推進し、一般車両から小型車、大型商用車まで全方位でカバーしていく。次世代の小型品では、機能統合により部品点数を20%削減する予定だ。

 電源系ではECUや電池監視IC、センサーなど構成部品を一括で手がける特徴を活かし、多種多様な電池を安全かつ高効率に制御できるシステムを提供する。電池監視は高精度な容量監視が可能な独自技術により、航続距離延伸に貢献する。

 ほかにも制御ECUや各種熱マネジメント部品など、あらゆる種類の電動車に対応可能な製品をラインアップして展開していく。長年実績のあるHVからPHV、EV、FCVまであらゆる電動車をカバーする戦略だ。

 また、ADAS関連として25年度に20年度比1.5倍の5000億円の売り上げを目指す。80年代からの歴史を持つ衝突安全、予防安全システム製品群をより強化する。ミリ波レーダーやセンサーなど多彩な事故シーンに対応できる製品ラインアップを揃え、センシングの高度化やAIの活用などにより差異化していく。商用車向け運行管理システムなど、後付け可能な製品も拡充する。

 このほか、車内の安全や快適性向上に貢献する技術、製品開発にも注力する。さらに、新規領域としてe-VTOL(電動垂直離着陸機)を挙げている。米ハネウェルと電動推進システムの事業化に向けて業務提携しており、新たなモビリティーである「空飛ぶクルマ」もカバーしていく。

デンソーの電動化戦略(同社資料より)
 なお、同じくトヨタグループのアイシンやジェイテクトも、21年に電動化への傾注を打ち出した。アイシンは21年4月にアイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュ(AW)が経営統合して社名を改めたが、これを機に「30年ビジョン」を発表した。30年度に製品の電動化比率を60%以上(20年度は7%)に高めるとしている。またジェイテクトは、主力の電動パワーステアリング(EPS)のADAS対応を強化している。構成部品を一体で開発し、完全自動運転にも対応できるシステムの実現を目指している。

日立やマレリ、三菱電機も電動化で攻勢

 続いてトヨタグループ以外の動きを見てみよう。21年1月に発足した日立Astemoは、日立オートモティブシステムズと、ホンダ系列の自動車部品メーカー、ケーヒン、ショーワ、日信工業の3社が経営統合した日立とホンダの合弁会社。統合により、パワートレインやADASなどのセーフティーシステム、ブレーキやステアリングといったシャシー製品、モーターサイクル製品と広範な製品群を擁する体制となった。電動化やADASなどを注力分野とし、25年度に売上高2兆円(20年度は1兆円弱)を目標とする。

 なかでもモーターとインバーターでは、25年度に世界トップシェアの獲得を目標とする。電動車用モーターではすでに高シェアを持つが、その地位をさらに強化する。インバーターも統合効果によりシェアを高めていく。日立グループとの密接な関係も特徴だ。自動運転関連では日立の先進プロダクトを活用していく方針で、ソフトやECUの一体での開発を推進していく。

 日産グループだったカルソニックカンセイと、イタリアのマニエッティ・マレリが19年に経営統合して発足したのがマレリだ。20年末に公表した中期経営計画では、電動化やコネクテッド、安全性および快適性などを注力テーマとしている。パワートレインや自動運転を構成するシステムを幅広く手がけていることが特徴だ。ライティングやセンシングを活用した安全性とデザイン性を両立させた安全性向上システム、音声対話やARを組み合わせて快適性を実現する車内システムなどの開発を推進している。

 また、欧州に基盤を持つマニエッティ・マレリと統合したことで、海外企業との協業を加速している。例えばLiDARでは米XenomatiXと共同開発を行っており、GaNパワーデバイスでは仏トランスフォームと提携して車載機器への応用を進めていく方針を打ち出している。

 三菱電機は重点成長5事業の1つに自動車の電動化とADASを挙げる。21年11月上旬に開催した事業戦略説明会で、25年度に電動化とADASの合計で2500億円の売り上げを目指す方針を明らかにした。同社はモーター、インバーターやそれらの制御技術といったパワートレイン関連から、通信、センシングなどのラインアップを持ち、自動車の電動化対応では20年以上の実績を持つ。デンソーのように大手自動車部品メーカーとして即座に名が上がる企業ではないが、電動化における存在感は大きい。

eAxleをめぐり攻防激化か

 上記で取り上げた企業に加え、電動化に伴い新たなプレーヤーも台頭してきている。なかでも代表格といえるのが日本電産だろう。筆者の本コラムでも何度か取り上げたが、近年の日本電産は車載事業を中核に位置づけ、積極果敢に拡大を図っている。21年7月に公表した中期戦略では、25年度に売上高4兆円(20年度実績1兆6181億円)を目標とする。うち車載事業は自律成長で売上高1兆円、M&Aを含めた挑戦目標として1兆3000億円を掲げている。

 日本電産の車載事業における主力製品が、電動車のキーパーツであるトラクションモーター(eAxle)だ。モーターとギア、インバーターを統合した機電一体部品だが、日本電産は19年にいち早く量産を開始して業界をトップの実績とラインアップを誇っている。21年7月までに累計16万台以上を販売し、30年に1000万台生産の目標を掲げる。

 これまで日本電産が独走状態を続けてきたが、日系自動車部品メーカーから追随する動きが出てきた。デンソーとアイシンはeAxleを開発、生産する合弁会社を19年に発足させたが、20年にはトヨタも出資した。アイシンは前述の「30年ビジョン」で注力製品の1つにeAxleを挙げており、今後量産車への搭載が本格化していくものと見込まれる。

 また、モーターとインバーターでトップを目指す日立Astemoも、eAxleへの注力を打ち出している。一方、マレリは仏企業とeAxleの開発で提携しており、欧州市場への展開を狙っている。三菱電機もまた、他社との協業を通じたeAxle市場への新規参入を計画している。

 日本電産はeAxleの量産化で先行しているが、現状では中国自動車メーカーへの採用にとどまっている。今後、日系や欧米系自動車メーカーへのeAxle採用が本格化するにあたり、大手自動車部品メーカーの追い上げは無視できないだろう。もちろん、日本電産も欧米系の開拓は視野に入れており、ステランティスとの合弁によりeAxleを生産する計画だ。

日本電産のeAxle(200kWモデル)
日本電産のeAxle(200kWモデル)
 電動自動車市場の本格的な拡大のなか、eAxleは当面の主戦場になりそうだ。先行する日本電産が市場シェアを確保するのか、実績ある自動車部品メーカーが大手自動車メーカーからの採用を押さえていくのか、注目される。またeAxleのインバーターにはパワー半導体が搭載される。eAxleを手がける企業の多くはインバーターなどの主要機器は内製するが、半導体は外部のデバイスメーカーを組んで調達する方針である。eAxleへの搭載がパワー半導体の電動車市場におけるシェアを左右することは間違いなく、こちらの攻防も激しくなりそうだ。


電子デバイス産業新聞 副編集長 中村剛

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