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第455回

TANAKAホールディングス(株) 取締役専務執行役員 事業戦略本部長 市石知史氏


トータルソリューション力が要
前工程へプリカーサー開発中

2021/12/17

TANAKAホールディングス(株) 取締役専務執行役員 事業戦略本部長 市石知史氏
貴金属に秘められた可能性を追求し、創造性あふれる技術力で社会の発展に貢献し続けているTANAKAホールディングス(株)。電子デバイスを含む最先端分野に加え、最近ではクリーンエネルギー、環境浄化、リサイクル、ナノ・バイオ技術応用など、貴金属の活躍のフィールドは拡大し続けている。2020年4月から同社取締役専務執行役員事業戦略本部長の任にある市石知史氏に、現況、強み、展望など幅広くお聞きした。

―― ご出生から今に至るマイストーリーから。
 市石 福井県に生まれ、父親が大手商社勤務だったため大阪、米国テキサス州ヒューストンで幼少期を過ごし、6歳で帰国後は東京都内で育った。私立芝中学・芝高校を経て横浜国立大学工学部へ進学。材料化学を専攻し、卒論では「金属イオンのキレート樹脂への吸着に及ぼす磁場の影響」に取り組んだ。この大学の恩師からの紹介で迷わず田中貴金属工業(株)入社に至った。
 入社後は市川工場の製造技術に配属され、回収精製の新プロセス開発、溶媒抽出導入などに挑んだ。そして市川工場長として200人を率いた後、湘南工場長、化学回収事業部長、16年に買収したメタローテクノロジーズへの赴任などを経て、20年4月から現職務にある。

―― 業績・市場別展開、足元の市況感について。
 市石 21年3月期連結売上高は1兆4000億円を達成した。産業系事業は、当社全体の7割程度であるが、産業系事業市場別内訳は自動車向けを中心とする産業機器向けが約3割、半導体・電子部品・ボンディングワイヤーなど電子デバイス向けが約3割、貴金属精製、ターゲット、ガラス業界向け白金装置などその他が残りである。
 足元の市況感は、20年度上期はコロナ影響を受けて減速したが、同下期から急激に回復し、多忙を極める状況に突入した。活況は継続中で受注残を抱えて工場はフル稼働の状態にある。ただし、半導体不足の影響で自動車メーカーの減産など不透明要素も出てきており、市場動向を注視している。

―― 貴社は電子デバイス用貴金属も広く提供されています。
 市石 ご指摘のとおり、電子デバイス向け貴金属材料の大半を取り扱っている。64年に半導体チップ実装用Au(金)ワイヤーを初めて国産化したことを皮切りに、今ではボンディング金ワイヤーで世界シェア4割前後と、供給量では世界トップである。金、銅、銀、アルミなど各種ワイヤーを取り揃えている。また、クリーンエネルギーとして期待されている燃料電池用の触媒では当社の推定で世界約60%のシェアを占める。

―― ボンディングワイヤーの現況および強みは。
 市石 ボンディングワイヤーの受注は引き続き堅調に推移している。ボンディングワイヤーにおける当社の強みは「トータルソリューション力」にある。各種ボンディングワイヤーの製造はグループ会社の田中電子工業が担っており、材料調達から製造・回収精製と、一連の機能をグループ内で保有している。また、半導体向けとしては田中貴金属グループ全体で、電極形成のターゲットや、めっき液の提供、検査用プローブピン、ダイシング・パッケージ用途としてボンディングワイヤー、導電性接着剤、封止材まで幅広く提供できる点はグループ全体での強みと言える。

―― 新開発も着手と聞いてます。
 市石 半導体の前工程向けを強化すべく、当社筑波事業所・テクニカルセンターで、ルテニウムを中心に貴金属のCVD/ALDプリカーサー開発を進めており、複数社で評価を頂いている。少量サンプルから開始しており、最終的に量産に持っていく予定だ。半導体の技術革新として、超微細技術の進化に伴い今後、低抵抗かつ高純度なプリカーサーは必須になってくると見る。

―― 燃料電池触媒はFCV(燃料電池自動車)に必須ですね。
 市石 FCVは大型バス、トラックなどの商用車や、フォークリフトから普及していくと見ている。田中貴金属工業湘南工場内の燃料電池触媒開発センターを増設し、研究開発に加え、生産対応もしている。

―― 今後の展望をお聞かせ下さい。
 市石 当社では85年に向けた超未来マップ、そこに向けた21~30年度までの10年シナリオ、その実現のための3カ年中期実行計画(中計)が存在する。中計では産業機器向けを強化し、24年度に向けてものづくり比率を上げていく方向性を見据えている。また、海外比率を現状の5割(16年のメタローテクノロジーズ買収分を含めれば7割)からさらに伸ばしていく。
 今後も品質、技術力、貴金属のリサイクル能力を武器に、世界を視野にものづくりで勝負し続けていく。


(聞き手・特別編集委員 泉谷渉/高澤里美記者)
本紙2021年12月16日号1面 掲載

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