電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第433回

ポストコロナもオンライン診療を制度化へ


「第4の医療」に位置づけ

2021/12/24

 日本における「オンライン診療」は、厚生労働省が1997年に初めて、直接の対面診療を行うことが困難な離島、僻地の患者や、慢性期疾患の患者など病状が安定している患者(在宅患者)に対して「遠隔診療」を認める通知を出した。2018年の診療報酬改定では、オンライン診察を組み合わせた糖尿病などの生活習慣病患者に対する効果的な指導・管理や血圧、血糖などの遠隔モニタリングを活用した診療を認めるとともに、呼称を「オンライン診療」に統一した。

 20年4月には、新型コロナウイルス感染症の急拡大を受けて、20年4月、ハイリスク薬、麻薬などの不可といった制限はあるものの、時限的に初診の患者を含め電話や情報通信機器を用いた診療や服薬指導を可能とする事務連絡を行ったが、諸外国と比べてオンライン診療の利用は低調だ。

 その一方で、厚生労働省は、「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」を組織し、2019年1月の第1回テーマ「見直しの背景と検討会の方向性について」から21年11月の第19回テーマ「『オンライン診療の適切な実施に関する指針』の見直しのポイントについて」まで議論を重ねている。検討会では、ポストコロナ時代もオンライン診療の普及を推進することを確認しており、今後さらに時間をかけて医療制度を構築し、「外来」、「入院」、「在宅」に続く、第4の医療に位置づける考えである。

厚労省、オンライン診療の指針を見直し

 第15回検討会の資料(電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果)では、21年3月末時点で、全医療機関数11万898機関に対し、(1)電話・オンライン診療が実施できる医療機関数は15.2%の1万6810機関。このうち、(2)初診から実施できるとして登録した医療機関数は7137機関、全体の6.4%となっている。これに対し、21年3月において、初診から実施したとして報告のあった医療機関数は632機関、受診歴のない患者に初診から電話・オンライン診療を実施したとして報告のあった医療機関数は292機関、実施件数は7763件にとどまる。

 電話や情報通信機器を用いた診療を実施できるとして登録した医療機関および初診から実施できるとして登録した医療機関で、人口10万人対比の申請数は山形県が最も多く、徳島県、高知県、長野県、長崎県、福井県、富山県と続いており、過疎地や離島を抱える県が目立つ。

 時限的措置が開始された20年4月からの医療機関数やオンライン診療件数の推移は、グラフのとおり。


 第15回検討会では、電話診療やオンライン診療の患者は小児や勤労世代が多かったということ、また、全体の傾向として軽症と思われる患者を中心に利用されていたということ、一部において、物理的に大きく離れた地域に対する診療、また、時限的・特例的取扱いで禁止されている麻薬・向精神薬の処方などが行われていたことが指摘された。

 また、海外の実情では、日本に比べ感染者数が圧倒的に多いアメリカは、今回COVID-19のパンデミックで大がかりな規制改革を行い、これまでに90%の医師が遠隔診療に携わっているというデータが出ていること、中国のオンライン診療システムPing An Good Doctorには、パンデミックの間は毎日9万2000件のアクセスがあったことなどを紹介。それに対しての日本のオンライン診療の普及の遅れを指摘し、抑えられている診療報酬見直しの必要性も提案された。

広がるD to P with Nのオンライン診療

 オンライン診療では医師と患者、いわゆるD to Pの形態のほか、患者のそばに看護師がいるD to P with N(Nurse)は、より正確な遠隔診療が可能になるだけでなく、看護師による処置などが可能になるため、より望ましい形態として広がりを見せている。

 一例として、医療法人徳洲会 徳之島徳洲会病院(鹿児島県)では、訪問看護師が患者宅に赴き、タブレット端末の準備およびバイタルセンサー(心電計、パルスオキシメーター、体温計、血圧計、体重計)を活用し、患者のバイタルデータを取得し、病院の電子カルテ端末に送信されるため、医師は、病院から患者の身体状態をリアルタイムで確認しながら診察・記録を行う。

 長野県伊那市は、松本市、長野市に続き、県で3番目の面積を有し、その広大な市域に7万人弱の人口が分布する一方で、伊那市が属する上伊那医療圏は医師少数区域で、とくに高齢化が進む中山間地域における医療体制の整備が大きな課題となっていた。

 そこで、伊那市は、トヨタ自動車(株)、(株)フィリップスジャパン、ソフトバンクグループ(株)などが設立したMONET Technologies(株)(モネ・テクノロジーズ)と次世代モビリティサービスに関する業務連携協定を結び、2年間の移動診療車の実証を経て、21年4月から「モバイルクリニック事業」を開始した。

 移動診療車は、トヨタのハイエースを改良し、オンライン診療用のディスプレイ、簡易ベッド、心電図モニター、血糖値・血圧測定器、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定器(パルスオキシメーター)、AEDなどを搭載している。医療診療車には、運転手と看護師が乗り込み、患者宅へ出向いて、医療機関に残った医師との間でオンライン診療を行う。医師が出向かないため、移動時間がかからないのが大きなメリットだ。2年間で、伊那中央病院を含む市内6医療機関が参加し、延べ約100件(実利用者数32人)のオンライン診療を行った

INA Health Mobility
INA Health Mobility
 MONET Technologies(株)は、また、20年10月から12月にかけて、静岡県浜松市が天竜区春野地区で実施した「春野医療MaaSプロジェクト」に参加し、看護師が乗車する移動診療車を活用したオンライン診療の実証実験を行っており、市が移動診療車の導入を目指している。

医療技術の進歩にルールの更新が必要

 第15回検討会では、バイタルセンサーなどの機器については、腕時計式や血糖モニタリングのように患者の医学的情報を取れるような機器も現状であり、パルスオキシメーターは1000円前後で購入できる。イスラエルのタイトーケアというスタートアップは、スマートフォンに附属の機器をつけることで、小児診療で聴診器や耳鏡を用いた検査を自宅からオンラインで行い、それを医師が確認することができる。急激に医療技術が進歩し、様々な検査が自宅でできるようになる時代もそれほど遠くはないと予想され、定期的にオンライン診療のルールもアップデートしていく必要があるという指摘があった。

 さらに、通信に関しては、ベンダーのシステムが採用するドコモ、au、LINEといったキャリアにより、患者が選べる医療機関が限られてしまうというのは非常に大きな問題で、日本の医療制度のいい仕組みであるフリーアクセスを阻害しないよう、キャリアを通したベンダーロックイン、もしくはクリニックロックインというのを防ぐために何か措置を講ずるべきではないかという意見が出された。

CLINICS/クロン/ポケットドクターが展開

 MEDLEYのCLINICSオンライン診療は、予約、事前問診、ビデオチャットでの診察、決済、薬・処方箋の配送をワンストップで完結することのできるオンライン診療システム。患者はスマートフォンやPCを用いて、居場所を問わずに診察を受けることができる。導入実績として、病院、診療所計26機関の事例を紹介している。

 クロンは、(株)MICINが16年4月に提供を始めたオンライン診療サービス。患者は手持ちのスマートフォンやパソコン、タブレットで利用可能で、予約から問診、診察、決済、医薬品の配送手続き(院内処方の場合)までをオンラインで完結させることができる。 医師も手持ちのパソコン・タブレット端末で開始でき、初期導入費用・月額費用0円で利用できる。20診療所の導入事例を紹介している。

 オンライン診療ポケットドクターは、ヘルスケア機器との連携が可能、医療機関やドクターの診療の空き時間に予約を登録することが可能、診察後にオンラインによるクレジットカード決済が利用できるサービスである。病院、診療所計31機関の導入事例を紹介している。

 導入した診療科・部門は、アレルギー科、産婦人科、てんかん科、耳鼻咽喉科、歯科・矯正歯科、児童・思春期精神科、小児科、心療内科・精神科、睡眠時無呼吸症候群外来、産婦人科、婦人科、小児神経疾患専門クリニック、肛門科、胃腸科、外科、泌尿器科、脳神経外科、肝臓内科、皮膚科、脳神経外科、美容皮膚科、耳鼻科、形成外科、腫瘍内科など様々。

中核病院、大学病院のオンライン診療が必要

 第16回検討会においては、オンライン診療は、かかりつけ医によることを原則とするが、かかりつけ医をもっていない若者などにおいては、かかりつけ医を持ってもらう1つのきっかけにもなる。さらに、オンライン診療はかかりつけ医の機能を支えて、暮らしの場での医療を実現して、地域のケアネットワークを支える新しい形の医療体系となることから、これを適切に普及させることは非常に重要との意見が出された。

 患者にとっても、オンライン診療を活用することでライフスタイルの変化というものが随分担保できる。特に働き盛りの患者は土曜日にしか来られないため、クリニックも土曜日がかなり混み合っており、患者はそのために半日かけて病院に来ているということがある。オンライン診療であれば、会社の仕事の合間でやることが可能であるため、患者のライフスタイルも変わるし、クリニックのほうの混雑緩和にもかなりつながっていて、受付職員等の過重労働も緩和できているという報告があった。

 また、医師の働き方改革においては、産休、育休明けのドクターがコロナの自宅療養の患者や発熱で来ている患者さんにオンラインで最初に事前の問診を行うとか、オンライン診療で育休復帰が緩やかにできるようなツールとしての活用事例が紹介された。

 さらに、クリニック、プライマリーケアをイメージしたオンライン診療であるが、今後、「入院」「外来」「在宅」に続く、「第4の診療概念」とされるオンライン診療を日本の医療システムに組み込むには、中核病院や大学病院でのオンライン診療の実施が必須であるとしている。そのうえで、クリニックと病院で実施されるであろうオンライン診療の姿は異なるとし、東京大学医学部附属病院では、非常に限定的に慢性疾患の患者から実施を考えている。その後は、他の病院においても向いている疾患、向いていない疾患などを抽出し、実施することが必要であるが、中核病院、大学病院が本格的にオンライン診療に取り組むには、診療報酬面でも見直しが必要と指摘した。

 第16回の意見や規制改革実施計画を踏まえ、検討課題として、(1)初診からのオンライン診療の取扱いおよび、(2)オンライン診療の推進における詳細、(3)オンライン診療の安全性・信頼性に関する事項などを挙げており、特に(1)については、第17~19回の検討会で制度化に向け慎重な議論が進められた。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

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