電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第459回

TDK(株) 代表取締役社長 石黒成直氏


22年はセンサー発芽の年
DCでHDD再び成長へ

2022/1/21

TDK(株) 代表取締役社長 石黒成直氏
 2023年度(24年3月期)に売上高2兆円、営業利益12%以上、ROE14%以上の達成を目標に掲げる電子部品大手のTDK(株)。新型コロナとの闘い、米中摩擦など世界情勢は不透明な要素を抱えての22年入りとなった。しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)とEX(エネルギートランスフォーメーション)は未来への大きな潮流、かつ電子部品がますます必要不可欠になると同社はポジティブに捉えている。そんな潮流に「One TDK」で挑み、社会課題の解決への貢献を志向する代表取締役社長の石黒成直氏に期待の分野、投資の方向性、展望など幅広くお聞きした。

―― 23年度までの中期経営計画に対して方向感を。
 石黒 為替や原材料高騰など様々な要因があるが、現状は計画を上回るペースで推移している。受動部品需要は底堅く、センサーも予想を上回る成長にある。つまり、自力でプラスになっている。他力本願で引きずられての成長は誰でもできるが、自力で機会を創出し、仕掛けていくこと。これが果たせていることは重要だ。

―― TMRセンサーも好調な印象です。
 石黒 TMRセンサーを始めて10年になる。当初に想定したとおりの成長軌道ではなかったが、ようやく時代が追い付いてきた。アプリケーション(アプリ)が膨らんできていることを実感している。技術力がアプリを創出するという好循環が生まれている。小型化に対応できるため、コストメリットもあり需要を後押ししているようだ。

―― 牽引しているアプリは。
 石黒 自動車向けに加え、スマートフォン(スマホ)のカメラモジュール向けが好調だ。ピント合わせや手ぶれ防止機能には磁石で動かすセンサーが使える。そこに超高精度な当社のTMRセンサーがマッチした。また、従来比で1桁速い応答速度、低消費電力、そして小型化という3拍子も揃い、スマホ用カメラモジュールのアクチュエーター向けに急成長している。さらに、TMRセンサーをコンパスで使う、という需要も出てきている。こうした実績が、スマホメーカー側に新たなアプリ開発の機会を創出している。海外大手スマホメーカーにご採用いただいており、回るもの、動くもの、ボイスコイル系など今後、さらにアプリが広がっていくだろう。

―― MEMSマイクロフォンについては。
 石黒 これからである。入力デバイスとして将来性がある。高S/N比精度、省電力化など技術的ハードルも高く、製造できるメーカーも限られる。当社では子会社の米インベンセンスのメンバーを中心に精力的に進めている。22年度内にMEMSデジタルマイクロフォンを上市する予定だ。

―― 製品化にあたりICはメーカーと協業ですか。
 石黒 自社で内製化している。ICは独自設計して製造はファンドリーに生産委託している。回路設計も自社で行うことで差別化が図れる。長い目で見た場合、電子部品を含むハードウエアは従来のような製造手法から、駆動部品を含めてまったく新しい複合部品のかたちへと進化していく。ICと電子部品は一体で開発する時代に突入している。

―― EVブームが到来しています。
 石黒 当社には自動車向けに展開中の圧力センサーや温度センサーがある。エンジン不要なEVでは両センサーは必要ないのではと言われるが、むしろ逆だ。バッテリーやモーターは放熱する。この熱は損失を意味する。損失をいかに省いて電費をよくするか。ここに温度センサーは必須である。また、エアコン駆動など何を駆動するにもコンプレッサーを要する。ここでは圧力センサーの出番だ。両センサーのさらなる高精度化が待たれている。こうした側面も含め、21年~22年は「センサー発芽の年」と言っても過言ではない。

―― 一方で、受動部品不足が依然続いています。
 石黒 そのとおりだ。当社はMLCC、インダクターなど車載向けの比重が高く、長期契約に基づくビジネスが主である。そのため、自動車のサプライチェーンに迷惑をかけることはできない。懸命に増産を仕込んでいる最中だ。当初想定では21年度設備投資額3000億円のうち約6割をLiB(リチウムイオン電池)に、約2割を受動部品に充てる予定だったが、LiB比率を若干減らし、その分を受動部品に振り向けて対応している。

―― 21~23年度で7500億円の投資計画ですね。
 石黒 21年度は精力的に先行投資すべく、投資内容をフレキシブルに調整しながら3000億円の計画を着実に実行している。22年度も同水準で投資する予定だ。23年度は2年間の投資効果を見ながら適宜見直すことになるだろう。

―― データセンター(DC)需要が活況です。
 石黒 当社にとってDCの動向はHDDヘッド需要に直結する。一時期HDDは枯れた技術と揶揄された時期もあるが、DCでは主役の座にある。テラバイトの世界だからだ。今後、DCでは何十テラバイト級のストレージデバイスを要することが想定されており、これを適正価格で満たせるのはHDD以外にない。DC需要は底堅く、少なくとも今後10年はHDDが再び成長すると見ている。

―― 2次電池にも注力されています。
 石黒 当社はスマホ向けのパウチ型電池で高いポジションを堅持しているが、世界のスマホ市場はすでに年間13億台の規模に達しており一服感が生じている。また期待の5G、IoT、AR/VRも市場の立ち上がりはこれからである。そこで、当社のパウチ型を活かせる用途として、家庭用蓄電システム向けや、拡大が期待される5G基地局向けバックアップ用バッテリー、イーバイク(e-bike)、電動二輪車などのイーモビリティー(e-Mobility)向けなどを見据えている。

―― CATLとの業務提携については。
 石黒 CATLは車載向けなど大型電池で豊富な実績を有している。今後拡大が期待される中型電池市場に両社で取り組むとともに、材料調達、最先端の技術開発などでも学ぶべきものがあり、新市場開拓でもシナジー効果が見込め、今後の展開に期待している。

―― 将来に向けた新規開発でも多数の案件が同時進行している印象です。
 石黒 当社テクニカルセンター(千葉県市川市)で将来の芽となり得る多くの開発案件が走っている。当社の得意とする磁気技術の強みを活かしたスピントロニクスの開発なども含まれている。マイクロLEDなども関心を持って動向を注視している。先行開発は未来を切り開く糧である。21年度は研究開発費を期初予想の1400億円から1600億円へ増額し、開発を強化している。

―― 今後の展望を。
 石黒 DXとEXを通して社会に貢献し続ける限り、当社には無限の商機があり、挑戦が続くと確信している。前述のTMRセンサーしかり、長年にわたり種まきをし、育ててきた製品群が時代の潮流にマッチしてきている。今後も当社グループ12万人の総力を結集した「One TDK」で社会課題の解決に貢献しながら、新時代を切り開いていく。

(聞き手・特別編集委員 泉谷渉/高澤里美記者)
本紙2022年1月20日号1面 掲載

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