電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第509回

ローム(株) 代表取締役社長 松本功氏


車載・産機好調で最高売上更新へ
SiCは25年度にシェア30%目標

2023/1/20

ローム(株) 代表取締役社長 松本功氏
 ローム(株)(京都市右京区)は、自動車の電動化の加速をはじめとした世界的な半導体需要の増大を背景に、好業績が続いている。2022年度の売上高は過去最高を更新する見通しで、過去最高規模の設備投資を進めて能力増強に注力している。業界に先駆けて製品化してきたSiCパワーデバイスも車載用が本格的に花開いてきており、高シェアの獲得に向け積極投資を行っている。代表取締役社長の松本功氏に話を聞いた。

―― ご経歴から。
 松本 福岡市の出身で、九州工業大学で金属加工を学んだのち、1985年に当社に入社した。半導体のプロセスエンジニア、デバイスエンジニア双方のキャリアを重ね、LSI生産本部長などを歴任して20年5月に就任した。同じ年の1月に創業者の佐藤研一郎氏が亡くなったこともあり、社内へ「品質第一」「良い商品を国の内外に供給する」「文化の進歩向上に貢献する」という当社の企業目的に立ち戻るよう呼びかけた。「絶対に止まらないライン」により世の中に製品を供給し続けるという原点に回帰することが、成長のために重要だと考えている。

―― 内製装置による一貫生産が強み。
 松本 現在は専門の装置メーカーの装置を使うことが多いが、かつてはステッパーとインプラ以外のほとんどの前工程装置、後工程装置を内製でカバーしていた。今でも一部の装置は内製を続けている。製造現場を熟知しているエンジニアを多数抱えており、長年の技術力の蓄積が当社の強みにつながっていると自負している。

―― 22年度の業績見通しを。
 松本 売上高5200億円(前年度比15%増)、営業利益900億円(同26%増)を計画しており、売り上げは過去最高を更新する見通しだ。上期に自動車生産台数が伸び悩んだ影響もあり、為替効果を除くと当初計画には至らなかった。ただし下期は回復に向かっており、特に1~3月期の伸びに期待している。

―― 車載・産機向けが成長を牽引している。
 松本 当社は90年代に日本のセットメーカーとともに高成長を遂げた。それがITバブルの崩壊後に苦境に陥ったことから、それまでのカスタムLSI中心の事業構造から脱却を目指して車載・産機向けシフトを図ってきた。成果が出るまでに時間を要したが、ようやく成長軌道に乗ってきたと考えている。

―― 海外売上高が伸長している。
 松本 22年度上期の地域別売上高では欧米、中国が20~30%増と大きく成長した。現状では依然として国内比率が高いが、中期経営計画では25年度に海外比率を50%に高める目標を掲げている。欧米と中国に加え、台湾を中心に伸ばしたい。

―― 過去最高規模の設備投資を計画する。
 松本 22年度の投資額は前年度比400億円増の1200億円を計画しており、過去最高だった00年度の1250億円に次ぐ規模だ。うち生産能力増強には約770億円を投資する予定で、前年度比で10%の増強を計画している。旺盛な半導体の需要に対応可能な供給体制を構築する。

―― SiCパワーデバイスは福岡に新棟を立ち上げた。
 松本 子会社のローム・アポロ(株)筑後工場(福岡県筑後市)で、SiC新棟を稼働させた。この新棟を中心に、全社で21~25年度に累計で1700億~2200億円をSiCデバイスの増強に投じる計画だ。欧米を中心に今後車載用SiC需要の本格的な拡大が予想され、どれだけ供給体制を強化できるかが競合に勝つためのカギだと考えている。SiC事業として25年度に売上高1100億円以上、シェア30%(20年度時点では14%)の獲得を目指す。25年以降も手を緩めることなく投資を継続し、事業拡大を図っていく。

―― SiCの車載応用では国内外の企業と提携が進んでいる。
 松本 電気自動車(EV)への展開拡大のため、積極的にパートナーシップを拡大してきた。20年にはパワートレインメーカーの独ヴィテスコ・テクノロジーズと協力関係を構築したほか、中国の新エネルギー車向け駆動分野の先進的企業であるLEADRIVEと車載インバーターの開発に向け共同研究所を開設した。21年には中国の吉利汽車と戦略提携を結び、正海集団とSiCパワーモジュールの合弁会社設立で合意した。また、中国大手ティア1のUAESのSiCソリューションにおける優先サプライヤーに認定された。22年には米国新興EVメーカーのルーシッドの車載充電システムにSiC-MOSFETが採用されたほか、中国のパワーデバイスメーカーのBASiCと戦略提携した。
 同年には日系企業との連携も進んだ。11月にマツダのEV戦略への参画を発表し、電動駆動ユニット向けインバーターとSiCパワーモジュールを共同開発する。また、日立AstemoのEV用インバーターにSiC-MOSFETとゲートドライバーICが採用された。

―― SiCは医療向けにも期待されている。
 松本 京都府立医科大学が取り組むBNCT(ホウ素中性子補足療法)機器を用いた、がん治療研究をサポートできればと研究棟やBNCT機器を寄贈した。SiCを用いることで加速器を大幅に小型化できる。

―― SDGsにも積極的に取り組んでいる。
 松本 主要拠点から順番に再生可能エネルギーの導入を進めている。筑後工場の新棟など、SiC製造の前工程における主要な拠点はすべて導入が完了した。22年にはタイの後工程工場にも導入した。ダイバーシティーの推進では女性をはじめとする多様なキャリア形成を促進しており、25年度にグローバル管理職比率15%を目指す。理系出身者の採用にも力を入れており、女性エンジニアの活躍の場も広げていきたい。

(聞き手・特別編集委員 泉谷渉/副編集長 中村剛)
本紙2023年1月19日号1面 掲載

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