電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第521回

10回目を迎える電子デバイスフォーラム京都


定番エレクトロニクスイベントとしてさらに発展へ

2023/9/29

 一般社団法人電子デバイス産業協会(NEDIA)は、10月23、24日に京都リサーチパークで「電子デバイスフォーラム京都」を開催する。2014年の第1回から早いもので10周年を迎え、発足当初から携わってきた筆者としても感慨深い。今では例年延べ約1000人が参加する、関西を代表する半導体エレクトロニクスのイベントとして定着した。そこで本稿では改めてフォーラムが始まった経緯やその意義に立ち戻るとともに、第10回となる本年のプログラムの魅力をお伝えしたい。

「京都のエネルギー」が原点

 「なぜ京都なのか」。東京に本拠を置くNEDIAが年間でも最大のイベントである電子デバイスフォーラム京都を関西で開催していることについて、告知記者会見などでこれまで何度も繰り返された質問である。そもそもこのフォーラムが始まった背景には、かつてSEMIの主催で行われていたフォーラムイベント、「SEMI Forum Japan(SEJ)」がある。

 SEJは東京の「セミコン・ジャパン」と並ぶ半導体のイベントで約30年の歴史を誇っていたが、残念ながら13年の開催を最後に終了した。これに危機感を抱いたのがSEJのプログラムに携わっていたロームの中村孝氏(当時、現大阪大学教授)ら有志で、関西地域における半導体エレクトロニクスのイベントが失われることを恐れた働きかけの結果、13年に発足したNEDIAが事業主体となって新たに電子デバイスフォーラム京都が開催されることになった。

 SEJは大阪で開催されていた。繰り返しとなるが、NEDIAのフォーラムイベントはなぜ京都を会場としているのだろうか。今となっては隔世の感があるが、2010年代初頭は日本の半導体産業にとっては冬の時代であり、エルピーダメモリの破綻をはじめとした暗いニュースが業界を覆っていた。これに対して時代の主役に躍り出たスマートフォンの急成長に牽引され、勢いを増していたのが電子部品業界だった。特に京都は村田製作所や日本電産(現ニデック)など大手電子部品メーカーが集積する地であり、半導体関連においてもSCREENやロームなど独自の強みを持った企業群が輝きを放っていた。暗い空気が漂う当時の業界にあって、そうした京都のエネルギーを取り込むことで日本の半導体産業の活性化につなげたい。電子デバイスフォーラム京都の誕生の背景にあったのは、その思いだった。

昨年の基調講演。例年満員の人気プログラム
昨年の基調講演。例年満員の人気プログラム
 周知のとおり10年代後半から半導体市況は好転し、踊り場はありつつも国内外の工場立地の活発化で業界は空前の活況に沸いている。そんななかで、依然として京都企業はエレクトロニクス産業全体を引っ張る勢いを保ち続けている。京都という地にこだわってきた電子デバイスフォーラム京都の先見性が示されたといえよう。


京都行政からも高い期待、充実した講演メニュー

 電子デバイスフォーラム京都は、第1回から一貫して京都リサーチパークを会場としてきた。1989年に日本初となる民間運営のサイエンスパークとしてオープンした施設で、500以上もの企業、支援機関が集積する。30年以上の歴史を持っているが、21年に10号館がオープンするなど今なお進化を続けている。京都駅からのアクセスも便利で、京都ローカルではなく全国規模を志向するイベントの開催地にはふさわしい。

 観光シーズンやほかの学会などの開催スケジュールとの兼ね合いで多少前後はしているが、フォーラムの日程は毎年10月中旬~下旬の2日間にほぼ固定されている。両日ともに午前中から夕方までぎっしり詰まった充実したスケジュールで、参加者からも高い評価が得られるクオリティーを保ち続けている。

 プログラムの基本構成も同じだ。午前中は初日が基調講演、2日目がマーケティングセッションで、どちらも多数の参加者を集める。基調講演前の門川大作京都市長および山下晃正京都府副知事の来賓挨拶も定番となった。京都行政からもフォーラムに高い期待が寄せられていることがうかがえる。

 両日午後は技術セッションと特別セッションが全5コース実施される。技術セッションはその時々のトレンドをとらえたテーマを取り揃え、特別セッションは中韓市場の最新動向など技術論点にとどまらない興味深いテーマが選定される。また、20ブース程度と小規模ながら展示会も開催されており、各セッションの休憩時間に観覧できる。近年では村田製作所の提供による「車載電子デバイスパビリオン」も定番コーナーとなっており、好評を博している。

 初日の夕方からはレセプションが開催されている。コロナ禍で一時中断を余儀なくされたが22年に復活し、今年は10周年記念として鏡開きなどを実施する予定だ。参加者同士の交流の場としても大いに好評を博しており、無事に10周年記念の会を開催できる運びとなったのは喜ばしい限りだ。

門川市長らの開会挨拶も定番に(写真は第3回)
門川市長らの開会挨拶も定番に(写真は第3回)
 コロナ禍といえば、集客イベントの開催が危ぶまれた20年からオンラインを導入したハイブリッド開催を行っていることも触れておきたい。会場への来場人数に制約がなくなって以降もハイブリッド式での開催は続けられており、遠方で京都への来場が難しい参加者も聴講可能な環境が提供されている。


10周年はラピダスなど注目講演目白押し

 では、いよいよ第10回となる今年のプログラムの紹介に移ろう。基調講演は10周年記念講演として京都大学の松波弘之名誉教授が登壇する。松波教授はSiCパワーデバイスの実用化につながった高品質結晶の作製に成功した第一人者であり、京都から世界に打ち出そうとするこのフォーラムで記念講演を行うのにうってつけだ。また、Rapidus(ラピダス)の専務執行役員で3Dアセンブリ本部長の折井靖光氏は、「チップレット時代における半導体パッケージ革命」と題し講演する。日本で最先端微細デバイスの量産に挑戦するラピダスと後工程を革新する技術とされるチップレットの組み合わせで何が語られるのか、非常に楽しみな題目だ。

 加えて、京都企業を代表してSCREENセミコンダクターソリューションズの社長執行役員、後藤正人氏が登壇する。主力の洗浄装置を軸とした、半導体製造装置メーカーの観点からの半導体市場の展望が語られる。さらに、基調講演ではお馴染みとなる産業タイムズ社会長の泉谷渉が登壇。ますますの活況を呈する半導体市場の未来像が示される。

 市場の展望を語るには、2日目のマーケティングセッションにも着目。インフォーマインテリジェンス(OMDIA)の南川明氏、みずほ証券の中根康夫氏と業界に名だたる著名アナリストがそろい踏みとなる。なお、不肖ながら筆者も両氏とともに名を連ねて最新の市場動向を報告させていただく予定だ。

SiC、3D実装、ChatGPTなど注目トレンド満載

 技術セッション、特別セッションも注目すべきテーマが目白押しだ。自動車の電動化の加速を背景に注目度が高まる、SiCパワーデバイス関連やパレートレインなどで注目のセッションが組まれている。また、将来のデジタル技術として注目される、量子コンピューターについても最新動向から関連技術まで幅広いテーマが揃えられている。

 市場の活況を背景に、半導体関連では特に充実したプログラムが設けられている。最先端メモリーから洗浄、エッチングなどの装置技術、シリコンフォトニクス、3D実装など、多彩なテーマが目白押しだ。さらにマーケティングセッションとは別枠で三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニアアナリスト、和田木哲哉氏が半導体市場について報告する。より深く、市場の展望を掴むことができるだろう。

 特別セッションでは、半導体市場を押し上げる存在として急浮上したChatGPTが取り上げられる。注目技術をいかに社会で活かすかというテーマが語られる。また、中国、韓国、インドを取り上げたセッションも設けられる。新たな市場として期待されるインドや、米中対立に揺れる中国、韓国市場の今後を占ううえでも注目のセッションといえよう。

産業全体の発展に貢献すべくさらなる進化へ

昨年のレセプションで挨拶する齋藤会長
昨年のレセプションで挨拶する齋藤会長
 10周年を経た電子デバイスフォーラム京都は、次の10年に向けて新たなスタートを切る。NEDIAの齋藤昇三会長はフォーラムが定番イベントとして定着した理由について、「電子デバイスの進化、進歩が非常に早い。そんななか、1年に1回その変化をタイムリーに伝えられていることが評価されたのだろう」と語る。一方で今後についてはこれまでと同じスタイルを続けていくかどうかの議論が必要だとも述べる。齋藤氏は今後の在り方として、「国や大学、企業との連携の場として、産業全体の発展に貢献できるシンポジウム」と展望を語った。また、海外からの参加者を増やすなど、ワールドワイドなイベントに成長させていきたいとの考えを示した。

 熊本のTSMCや北海道のラピダスといった大型プロジェクトの進行、米中対立激化やインドの台頭といった世界情勢の変化など、半導体エレクトロニクスを取り巻く環境は激化の様相を見せている。そんななかで業界の今後を占う一助としての電子デバイスフォーラム京都の役割は、今後ますます重要になっていくことだろう。



電子デバイス産業新聞 副編集長 中村剛

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